不気味な輿を取り巻く兵士たちは、今川軍そのものであった。輿には誰が乗っているのか、誰も知るものはなかった。そして、その不気味な輿は桶狭間の谷間となり、輿を取り囲む兵も動きを止めた。 桶狭間の谷に入った羽柴軍は、その不気味な輿の前に立ちすくみ、これは15606月に桶狭間の戦いで討ちとられた今川義元の亡霊だと皆信じ、動揺していた。羽柴秀吉は、これは、武田軍が仕掛けた罠であり、輿には誰ものっていないと兵士たちの動揺を鎮めようとした。そして、秀吉自ら真意を確かめるために輿めがけて矢を放った。しかし、矢を放った瞬間、強風が吹き、強風に吹き飛ばされ、矢は輿を大きく外した。



しばらくすると、輿の中から不気味な笑い声が聞こえ、輿の御簾がゆっくり上がったあと、輿の中から白い煙幕が上がり、その中からは桃色の装束を着た一人の忍者が現れた。それは女忍者 くの一であった。そして、取り囲む兵士たちも黒装束の忍者姿に変身したのだった。そして くの一らは、羽柴軍めがけて、白い玉を投げつけた。そして、白い玉が羽柴軍の兵士に命中すると、その白い玉は割れ、白い玉の中から白い煙幕があがったのであった。煙幕が上がるやいなや、しばらくすると、羽柴軍の兵士たちは次々と倒れていったのであった。実はその煙幕には睡眠薬が含まれており、睡眠薬を吸い込むと、兵士たちは数時間 居眠りをしてしまう武田軍の恐るべき秘密兵器だったのであった。



羽柴秀吉の率いる兵士のほとんどが居眠り状態になり、羽柴軍の兵力は数百人まで激減したのだった。一方、桶狭間山に陣取っていた高坂弾正の率いる1千の兵は、この羽柴軍の兵士たちは次々と居眠りする様子を確認し、今が好機と羽柴軍めがけて一気に桶狭間山を駆け下り、大将 羽柴秀吉に標的を絞り、突進するのであった。



ところが、再び羽柴軍に寝返った松平信康は、桶狭間の谷の北側に差し迫り、大将 武田信廉のそばまで近寄り、信廉めがけて奇襲をかけようとしていたのだった。

                                                                        つづく