限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)
限りなく透明に近いブルー (講談社文庫) [文庫]
村上 龍
講談社
1978-12-19



「限りなく透明に近いブルー」は私にとって特別な小説です。実は高校時代までは村上龍だけでなく村上春樹も含めて現代文学は読んでいませんでした。

どちらかと言うと古典ばかり読んでいたのですが、大学に入学してから同級生に熱心に薦められ、ようやくこの「限りなく透明に近いブルー」を読みました。

私は「限りなく透明に近いブルー」に世界観が変わるほどの衝撃を受けて、すぐに村上龍の全作品を一気に読みました。村上龍は戦後の日本文学を、ある意味大きく塗り替えた作家でした。

今手元にある「限りなく透明に近いブルー」の文庫本は、大学時代に初めて読んだ時の文庫本です。紙は黄色く焼け古本独特の香りがします。表紙のイラストを見ると今でも切なくて泣けてきます。これは村上龍本人が描いたもので、リリーという女性を描いたものです。


あとがきを読むとリリーという女性は実在する女性ではなくて、いろいろな人生、芸術、時代などを象徴している特別な存在なのだと感じました。

文庫本をパラパラめくると、ところどころに線が引いてあります。大学時代の私はこんな文章に線を引いていたのかと、全然覚えていなくて不思議な感覚を覚えました。

 

この小説で群像新人賞を受賞してデビューした村上龍は、作品の内容とその存在自体があまりにもセンセーショナルだったため、社会現象になり本は売れに売れました。1976年村上龍24歳の時でした。

そしてあっという間に芥川賞も受賞しました。その時の選考委員たちの評価は前代未聞のものでした。これだけ才能を絶賛された作家は後にも先にも村上龍しかいません。
 

吉行淳之介「この数年のこの賞の候補作の中で、その資質は群を抜いており、抜群の資質に票を投じた。この人の今後のマスコミとのかかわり合いを考えると不安になって、「因果なことに才能がある」とおもうが、そこをなんとか切り抜けてもらいたい。」
 

丹羽文雄「芥川賞の銓衡委員をつとめるようになって三十七回目になるが、これほどとらまえどころのない小説にめぐりあったことはなかった。それでいてこの小説の魅力を強烈に感じた。」「若々しくて、さばさばとしていて、やさしくて、いくらかもろい感じのするのも、この作者生得の抒情性のせいであろう。」「二十代の若さでなければ書けない小説である。」
 

中村光夫「その底に、本人にも手に負えぬ才能の汎濫が感じられ、この卑陋な素材の小説に、ほとんど爽かな読後感をあたえます。」「無意識の独創は新人の魅力であり、それに脱帽するのが選者の礼儀でしょう。」 
 

井上靖「私は(引用者中略)推した。芥川賞の銓衡に於て、作者の資質というものを感じさせられる久々の作品だったと思う。」「所々に顔を出す幼さも、古さも、甘さも、この作品ではよく働いていて、全篇をうっすらと哀しみのようなものが流れているのもいい。」「題材が題材だけに、当然肯定もあり、否定もあると思う。肯定と否定とを計りにかけ、その上でどちらかに決めさせられるような作品である。そういう点も、この作品の持つよさとすべきであろう。」

72年に武蔵野美術大学に入学する以前、村上龍は四ヶ月ほど福生の米軍ハウスに住んでいました。そのときの経験をこの小説は土台としています。

この小説が衝撃的だったのは、ドラッグやセックスといった若者風俗を描いただけではなくて、全くこれまでの小説らしくない、新たな描写の可能性を切り拓いた斬新でとても美しい文章だったからです。

いま読み返しても、いつまでも新しいままで、今なお現代的であり続けています。スキャンダルとなった性描写も淡々としていてエロスは濃厚ではありません。

大学生だった私はこの小説の次のような箇所に線を引いていました。

「風に揺れるトマト畑。トマトは点滅している。火花を散らしながら揺れる無数の赤い実は、まるで暗い海に泳ぐ発光する牙を持つ魚のようだ」


 「目を閉じても網膜に焼きつく白っぽいオレンジ色」

 「あたしさっきから死ぬことばかり考えているわ。どこにいるのよ、リュウ、あたし達どこにいるのか教えてよ」

 「恐ろしい勢いで離れていくのは僕達の方だと思った。僕の足元から拡がる地面や草や線路の方が、下の方へ落ちていったのだと思った」

 「ねえ、リュウ、あたしを殺してよ。何か変なのよ、あなたに殺して欲しいのよ。目に涙を溜めてリリーが叫ぶ」

 「俺帰ろうかな、帰りたいんだ。どこかわからないけど帰りたいよ。きっと迷子になったんだ。もっと涼しいところに帰りたいよ、俺は昔そこにいたんだ、そこに帰りたいよ。リリーも知ってるだろ?いい匂いのする大きな木の下みたいな場所さ、ここは一体どこだい?ここはどこだい?」





本記事は「現代文学4.0」からの転載です。






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