孤独論 逃げよ、生きよ
田中慎弥
徳間書店
2017-02-10



「新潮創刊1300号記念特別号」を買って最初に読んだのは、田中慎弥さんの「作家か人間か」でした。私はこれを最初小説だと思っていて、いろいろな意味で凄いタイトルだなと考えていたのですが、実はエッセイだったのは、残念だったというより、むしろ納得しました。田中慎弥さんのエッセイを読むのは初めてでしたが、そもそもエッセイは書かない小説家というイメージでした。だからエッセイの腕前はどうなのかなと思いましたが、予想以上に素晴らしかったです。

まずは作家としての幸福が書かれています。「新人賞の候補になり、自分の書いたものが人目に触れたということが、怖いより、恥ずかしいより、単純に、ありがたかった。」と始まります。

次に、「翻訳されて海外で読まれるようになれば、これも大きな幸福だ」とあります。私は田中さんの「蛹」という小説は、カフカの「変身」と同じように、世界的な古典になりうると評価しているので、これは非常に可能性の高い幸福だと思います。

しかし最後の幸福には衝撃を受けました。「最大の幸福は、当然ノーベル文学賞意外にあり得ない。」ときました。ああ、田中さんはとうとうおかしくなってしまったのだ、というのは間違い。田中さんはデビュー前から真剣にノーベル文学賞を狙っているのです。もの凄い自信で感心しますが、作家たるものこのぐらいの野心はみんな持っているのかもしれません。

この後に作家としてではなく、人間としての幸福へと話は変わります。その文章を読んで僕は不覚にも泣いてしまいました。エッセイで泣いたのは生まれて初めてでした。「私は一人前に、人間として壊れてしまった」といきなり来ます。人間として壊れるのが一人前なのかどうかは置いておいて、大変な事態が起こったのだと思ってしまう。その後には次のように続きます。

「作家とは最終的に孤独なもので、味方も仲間もいない。毎日自分を追い詰めている。自殺しかけたことが何度もある。一番の問題は他人とコミュミケーションをとろうとしないことだ。いわゆる、空気、というものが読めず、会う人を不快にさせてしまう。特に女性の反応は最悪で、避けられることが多い。友人がいて恋愛も結婚も出来る、という、人間としての幸福には手が届きそうにない」

これは嘘でも冗談でもありません。田中さんの正直な幸福というものに対する自分なりの結論だと思います。しかし最後は作家ならではの決意表明です。作家としての究極の心情の吐露です。

「作家としてのみ幸福になることは自分をますます追い詰めるが、それ以外に道はない」


孤独論 逃げよ、生きよ
田中慎弥
徳間書店
2017-02-10