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 中村文則さんの「教団X」が大ベストセラーとなっていますが、今回ご紹介するのは2013年「新潮創刊1300号記念特別号」に掲載された中村文則さんのエッセイです。タイトルはずばり「基本は『不幸』」です。なんという絶望的なタイトルでしょうか。「基本は不幸」と言わねばならない人生とは何でしょうか。こっちこそ基本は不幸だと言いたくなります。作家になれて、しかも作家として生活をしているだけで充分幸福じゃないかと素朴に思います。
 
 しかし、実際に彼のエッセイを読み始めると、どの文章も珠玉の文章でありました。

  ”
世の中と折り合いをつけられないから、本を読んできたのだし、内面に溜まっていく言葉を外に出さないと憂鬱になるから、ノートを開き、ジメジメ言葉を書く。要するに僕は暗い人間なのである。”
 
 私の場合も、世の中と折り合いをつけられないから、本を読んできたのだし、その読書体験を言葉として外に出さないと憂鬱になるのでこの文章を書いています。要するに私も暗い人間なのです。

 それはそれとしてエッセイの続きをご紹介しますと、

”『毎日超楽しい!充実してます!自分は社会の立派な一員です!』みたいな人間が書いた小説なんて気持ち悪くて読みたくない。純文学を書く作家で、そんな超絶な前向きさを持つ人間なんていない。”
 
 その後で中村さんは衝撃的な体験をしたことを告白し、(ここでは明かさないが)、これは広義の意味で「罪」にあたると己を断罪するに至ります。
 
 そういう訳でエッセイの終盤になり、中村さんはようやくというか、たぶん出版社の意向で仕方なく、「作家の幸福」について書き始めます。

”ここまで色々と書いてきたけど、そろそろ作家の幸福について書かなければならない。そんなものはない、という答えにしようと思っていたけど、あえて書いてみる。”

 私としては「そんなものはない」という一言で終わっていたら最高だったと思います。実際にあえて書かれた幸福は、理解は出来ますけど幸福だとは特に思わなかったです。ただ最後の文章には同感でした。
 
 ”自分のことは一ミリも尊敬できないが、僕は作家という職業を尊敬している。なぜなら暗くてジメジメしたナメクジみたいな自分を救ってくれたのは、肉親でも友人でもなく作家の言葉だったからだ。”


 
教団X
中村 文則
集英社
2014-12-15