透明な迷宮 (新潮文庫)
平野 啓一郎
新潮社
2016-12-23


 本書「透明な迷宮」に収められている「Re:依田氏からの依頼」という小説は、文芸誌新潮2013年7月号に掲載された平野さんの問題作であり、新たな代表作の序章でもあり、読者がいま最も注目している小説です。

  

<「Re:依田氏からの依頼」というタイトル>
 

  私は最初、「り いだし からの いらい」と読みました。そのままメールの返信かと思いましたが、平野さんがそれだけの意味でこのタイトルにしたはずがありません。非常に謎めいたタイトルです。

 
 群像8月号の創作合評に次のような議論がありました。

 
 ”吉増剛造さん:「Re」が「リ」なのか「レ」なのか、この「Re」が謎だなと思っていたら、「依田」と「依頼」の「依」の字が被っているじゃないですか。

 長野まゆみさん:そうなんです。だから、作者は何と読ませたいんだろうという疑問が残りました。普通は「よだ」と読んでしまうけれども、「いだ」かもしれません。

 中条省平さん:ルビがないですね。

 長野まゆみさん:「Re」は「リターン」から取って「リ」と読めますし、「レスポンス」の「レ」とも読めます。もし平野さんがどちらかにしたいなら、ルビを振っていると思うんです。どちらでもよいときにはルビを振らないことが私にはありますけど。

 吉増剛造さん:「レクイエム」かな。

 長野まゆみさん:それはいい読み方ですね。”
 

 メールの返信も「リ」なのか「レ」なのか、そういえば意識したことなかったです。それで調べてみたところ、『Re:は、電子メールやネットニュースの「返信」を意味する語である。文字上の表現手段であり、読み方が定義されていないため正確な発音は存在しないが、あえて発音されるときはリーもしくはレーと発音される。』

 
 発音が存在しない語をあえてタイトルにしたのでしょうか?これは「Re」をどう読むのか、どう解釈するのか、完全に読者に委ねられています。平野さんは沈黙して謎をかけるだけです。

 

 次に「依田」ですが普通は「よだ」です。

        

 最初タイトルにまず「依頼」があって、それに対応する名前として「依田」をチョイスしたのではないでしょうか。意識的に「依田をいだ」と読ませるという意図が窺えます。依頼⇒依田⇒よだ⇒いだ⇒依田氏からの依頼

 

 「依頼」が誰からの依頼なのか?何の依頼なのか?は小説全体を通しての大きな謎です。 「平野さんの小説のタイトルと、大野の小説のタイトルの関係はいかに?」との問題も残ります。この二つのタイトルは、おそろしいことに「違う読み方」の可能性があります。平野さんからのヒントらしきものが一箇所だけありました。

 

 「受信したメールの返事を書きそこなって過ぎた二日間は、あっという間に感じる。しかし、送信したメールの返事を待つ二日間は長い。」


透明な迷宮 (新潮文庫)
平野 啓一郎
新潮社
2016-12-23



マチネの終わりに
平野 啓一郎
毎日新聞出版
2016-04-08