poster2


水井真希さんの初監督作品「ら」が話題になっている。「ら」は連続女性暴行事件を扱った映画であるが、これは実話を元にしている。

しかもその実話の体験者は水井真希さん自身なのだ。そのような事件だと自分の体験を映画化されるだけでも嫌なはずなのに、自分で監督してしまうとは並の器ではない。

水井真希さん自らが見知らぬ男にある日突然車に押し込められて「拉致」されたのだ。常人なら大きなトラウマとなりPTSDになってもおかしくない重く厳しい経験である。

思い出したくなくても記憶がフラッシュバックしたはずだ。その記憶を映画にするということは、まさに自分の心と身体を切り刻んで料理することに他ならない。

水井真希さんは現実世界の悲惨な自分を克服するため、あえて虚構の自分を作ったのかもしれない。その虚構の世界で自分の恨みを晴らそうとしたのではないか。

「現実世界の自分など滅びてしまえ」という怨嗟は、映画に限らずいろいろな分野の作品の創造のエンジンとなってきた。

しかし水井真希さんは自分の怒りに溺れていないように見える。どれだけの人たちがこの映画を通して水井真希さんと怒りを共有できるか楽しみだ。

また水井真希さんは単に自分の恨みを晴らそうとしただけではなく、連続女性暴行事件を社会悪として告発する意図もあっただろう。

この映画は水井真希さんの孤独な戦いの記録である。頭だけで作った映画ではなく、現実の肉の痛みとして、心の痛みとして自分の秘密にしていた事件と向き合い、己の傷を治療するプロセスが映像となったはず。
 
ところが「サイゾー(2015年3月号)」での彼女のインタビューは、そんな思い込みをあざ笑うかのようなものだった。

「映像化することで過去に折り合いをつけたかったとか、きっとそういう答えを期待していると思うんですけど、作品にしたことで気持ちに何か劇的な変化があったかというと、特にない。」 

 又、彼女は被害者たちの中では比較的無事に解放されたらしいのだが、その理由は「犯人のほうが私を扱いづらいと思ったんじゃないかな」という驚愕の真実である。

連続女性暴行事件の犯人に「扱いづらい」と思わせてしまう水井真希さんって一体・・・。

おまけに犯人から「もっと自分を大切にしろ」という人生における温かいアドバイスまでもらったとのこと。それぐらい事件当時の水井真希さんは人生に絶望し自暴自棄となっていたのだ。

そんな水井さんの新しい人生は自殺未遂から始まった。「自室にこもって9日間絶食をしたんですけど、そのときに人間っていつでも死ねるんだな。もう死ななくていいや」と悟った。

そして永井さんの映画との出会いは園子温監督の「自殺サークル」である。「自殺サークルって映画に出会って、私もこの世界で生きていける」と思えた。

水井さんは否定するかもしれないが、この映画「ら」を観て「もう死ななくていいや」「私もこの世界で生きていける」と救われる人がきっといるに違いない。


ら [DVD]
加弥乃
アルバトロス
2016-12-02