ちきりんさんに興味を持ったのは、「週刊プレイボーイ[2015年02月02日]」で共産党の志位委員長とちきりんさんの対談を読み、それが凄く面白かったからだ。ちきりんさんは「共産主義の党なのに、ほかの党よりマーケティングがうまい」「『戦前から戦争に反対してきた唯一の党』も、共産主義の色を消し、反戦を前面に出したうまいコピーです」「2004年に党の基本方針である『綱領』を変え、『庶民を守る党』というポジションにうまく転換されました」「私はこれを『二段階革命論』を援用した巧みな立ち位置のシフトだったと思いますが、マーケティング的に百点満点の成功事例だと思います」と絶賛の嵐であった。

そして本書「マーケット感覚を身につけよう」の存在を知った。本の表紙にはタイトルの隣に「これから何が売れるのか?わかる人になる5つの方法」と書かれている。つまり「マーケット感覚」とは「何が売れるのかわかる感覚」ということらしい。共産党は「何が票を集めるのかわかる感覚」を持っているということだろう。そして本の帯には「論理思考と対になる力を教えます!」とある。つまり「マーケット感覚」とは「論理思考と対になる感覚」ということだ。

学生の頃は「論理思考」ばかり教えられた。大学の最終目標は論理思考の集大成である卒業論文を書くことだった。問題提起し、その問題について論理的に議論し、そこから結論を導く。学問をするには「論理思考」があればいいが、ビジネスをするには「論理思考」だけではダメだ。「論理思考」に加えて「マーケット感覚」を身につけないと商売にはなりませんよ、ということを本書は言いたいのだろう。

誰だって商売で成功して儲けたい。ビジネスに成功するために必要なものを常に探している。本書にはその答えがある。必要なのは「マーケット感覚」だ。本書を読んで「マーケット感覚」を身につければきっとどんな仕事にも役立つはずだ。我々は小難しいビジネス書ではなく、本当はこういう本を待ち望んでいたのだ。

最初にちきりんさんは「金塊の例え」を紹介している。「あるときふと足もとを見ると、そこに大きな金塊があった」とする。もし大人ならすぐに驚いて興奮するだろう。しかしもし幼児や動物だったらどうなるか?彼らは金塊には興味を示さないだろう。この例えが示すのは、「自分のすぐそばに価値あるものが存在していても、その価値を認識する力がないと、自分の周りには何も価値あるものがないと思える」ということだ。つまり「マーケット感覚」とは「価値を認識する力」と言い換えることも出来る。

「価値を認識する力」について、ちきりんさんは主婦を例にあげる。「長く仕事から離れていたため、パートやアルバイトしか職が見つからないと嘆く専業主婦の人」がたくさんいるが、その一方「主婦スキルを最大限に活かし、キャラクター弁当作りのレシピ動画作成、収納のカリスマアドバイザーや、しつけや教育のコンサルタントとして、一般の会社員以上に成功する人」もいる。

ほとんどの主婦は学校を卒業した後に主に一般職として就職するが、結婚を機に、或いは出産を機に仕方なく退職し、その後は主婦として子育てや家事とパートを両立させる、というのが結構長く続いてきた女性の姿だろう。でも主婦だってもっと仕事をしたい。お金を儲けたいだけでなく、仕事を通して社会に認めて欲しい。そう思っている主婦は多いはずだ。

しかしほとんどの主婦は、何かの特技を活かしてビジネスに成功した主婦の話を聞くと、ものすごく羨ましくなり、自分にはとても無理だ、あの人たちには特別な才能があるのだと勝手にあきらめてしまう。そんな人たちに「あなたに価値あるスキルがないわけではありません。主婦業を通して身につけたスキルが、誰にとってどんな価値があるのか、見極める能力が欠けているだけですよ」とちきりんさんは言いたいのだ。

つまり「マーケット感覚を身につける」というのは「新しく価値あるスキルを身につける」という意味ではなくて、「すでに持っているスキルの価値を見極める能力を身につけよう」ということなのだ。言い換えれば「足りないのは価値ある能力ではなく、価値ある能力に気がつく能力」ということ。目から鱗の非常に希望に満ちた前向きな考えだ。

自分は成功者ではないと思っているほとんどの人は、おそらく「自分には能力がない」と思い込んでいるはずだ。でも何か仕事を続けていれば、誰にだって価値ある能力は身についている。だからもう新しい能力ばかりをいつまでも探していないで、いま自分が持っている能力を上手く活かして成功しましょうというのが「マーケット感覚を身につける」ということだろう。

能力を高めるための努力をいつまでも続けて疲弊するのは本末転倒である。難しく考える必要はない。考え方を変えればいいだけなのだ。「マーケット感覚」という新しい感覚で自分を見つめ直す。それだけで一気に人生は変わるはず。本書を読めば誰でも「マーケット感覚」に目覚め、自分の能力を再発見し、今の自分を大切にしながら成功に近づくことが出来るに違いない。

ちきりんさんが本書で最も強く読者に届けたいメッセージは次の言葉に集約されていると思う。「今は多くの人が、これからの社会で求められるのは、どんな能力なのか?という問いへの答えを探しています。実はこの問いに対する私の答えこそ、マーケット感覚です」

もう能力を永遠に高めようとする不毛な努力はしなくていい。その時間を使って今のあなたの能力をじっくり見つめ直してください。あなたにも絶対に売れる能力はあるんです。そんなあなたのために本書は、「①マーケット感覚とは何か説明し、②なぜそれが大事なのか理解していただき、③マーケット感覚を身につけるための具体的な方法論を提示」してくれています。

ちきりんさんは読者のみなさんが「この本を活用してマーケット感覚を身につけ、今後どんどん変わっていく未来を、今よりさらに大きな自信を持ち、前向きに、そしてワクワクしながら迎えていただくこと」を心より願っています。