インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ
インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ [単行本]
小林弘人
晶文社
2015-01-24


本書「インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ」はQ&A的な対談形式の本となっており非常に読みやすいが、その内容はハイレベルである。しかも2015年1月に出版されたばかりなので、文句なしに最新の情報ばかりだ。そして対談でのQ&AのAを主に担当するのはあの小林弘人さんである。面白くないわけがない。

小林弘人さんを簡単に紹介すると、1990年代に「ワイアード」誌の日本版編集長となり、2000年には雑誌「サイゾー」を創刊、「フリー」「シェア」「MAKERS」などの予言的なウェブ関連本の監修を務め、企業のウェブ広告に先進的なマーケティング手法をもたらすなど「生きたインターネットビジネス」と呼ばれる人である。

SNSもスマホも無い2007年に小林さんは、「インターネットが普及すると、個々の人間がみんなメディアになる」と予言し、その予言は的中した。本書はその予言「誰でもメディア宣言」の続編とも言える。「誰もがメディアになる時代が到来したら、人々は、社会は、ビジネスは、どうなるんだろう?」という疑問に対する考察である。

それではタイトルの「ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ」とはどういう意味かと言うと、「インターネットやデバイスの普及で世界中がつながった。グローバリゼーションが進展し、バーチャルな世界での情報のやり取りが活発化した。そうしたら、むしろ、ものすごく属人的で徹底的にリアルな村や部族のようなコミュニケーションの世界が待ちかまえていた」ということだ。

もう少し詳しく説明すると、「インターネット、SNS、スマホが普及した結果、我々がやっていることは、スマホで小さな村をいくつも作ることだ」「仕事の村、趣味の村、地域の村、家族の村など、誰もが複数の村をスマホ片手に行き来している」のが現在の我々の生活ということだ。

そう言われてみると、誰もが思い当たるところがあるのではないか?スマホを通して世界が果てしなく広がっていったというのは幻想で、実態は極めて限定された世界に生きているのだ。

しかし、それは「退化ではなくヴァージョンアップ」である。インターネットが私たちを「巨大組織の中で生きる現代人」から、「小さな村で活動する原始人」に先祖返りさせたのだ。私たちは「原始人2.0なのだ」というのが本書の仮説である。

ところが本書は一体何を扱った本なのか一言では説明できない。インターネット論であるが、メディア論でもあり、マーケティング論や企業論としても読める。トピックスが多岐に渡っていて、全体像の輪郭が曖昧なのだが、そこが本書の最大の魅力とも言える。

しかしあえて一言で言うならば、小林さんの言葉を借りれば、「本書は編集者入門」である。「編集力によるあらゆる分野のブレークスルーへの貢献」が本書の核にある。本書を読み終えた読者には、新しい編集力の使い方が身についているはずだ。

小林さんは「ソーシャルメディアの普及によって、構成員の顔がほぼ全員見渡せるくらいの村落規模のコミュニティが再浮上してきた。現代人でいながらも原始人間の立ち位置に戻っている途中にある」ということを実感している。

ネットの発達により失われそうになっていたリアルで身近な情報が、SNSの爆発的普及により、逆にリアルタイムな生の情報として強化されたのだ。それは今振り返ると必然であったと言える。顔が見える者同士のコミュニケーションという原点に返ったのだ。

アナログがデジタルに取って代わられるというのは、ある意味間違っていた。デジタルの先を見た時に必要とされたのは、実は過去のものと思われていたアナログ世界だった。この時代のビジネスで重要なのは、「背景に流れている思想・物語をユーザーと共有すること」だ。どれだけテクノロジーが発達しても失ってはならない「心」こそが思想となり物語を紡ぐのだ。

みんながスマホを持った原始人になって、それぞれが小さな村に棲むようになって、社会やビジネスをめぐる状況が激変している中、それでも成果を上げている企業や組織は「人が欲するデザインと物語を合体して提供している」と小林さんは指摘する。

「デザイン」も本書の重要なキーワードだ。小林さんはメディアでの発信で考えるべきは「デザインする意志」だと思っている。言い換えれば「自分の役割によって社会をどういうふうに動かしたいか」という意味での「世の中との接点をデザインする意志」だ。それが本物のアウトプットにつながる。

非常に難しいが、本書の結論らしきものを簡単に要約すると、「みんながスマホを持った原始人=ハイテク・バーバリアン=ギャートルズ2.0的な人間にならないと、インターネットを前提とした世界ではサバイバルできない。我々はインターネットの荒野に放り出された原始人であることを自覚しましょう。その上で、自分がどんな村に所属しているか再確認しましょう。そして村に何が提供できるか考えましょう」ということになるだろうか。

以上のようなウェブを巡る最新の動向、最先端で活躍する人たちの考察などに関して、小難しい文章ではなくトークライブのような対談で、豊富な情報を効率的に得られるのが本書のユニークで凄いところだ。