「人工知能は人間を超えるか」とは非常にタイムリーなタイトルである。世の中は人工知能ブーム。あらゆるメディアで人工知能(AI)という単語を頻繁に見かける。人工知能が人間を超える日は本当に来るのか?来るとしたらいつなのか?その後の人間の生活はどう変わるのか?自動運転車は実用化されるのか?人間の仕事は機械に奪われてしまうのか?人間と人工知能が共存する社会とはどのような社会なのか?様々な疑問が尽きないテーマを本書は扱っている。

松尾さんが本書「人工知能は人間を超えるか」を書いた最大の目的は、「人工知能の現在の実力、現在の状況、そしてその可能性をできるだけ正しく理解してほしい」ということだ。人工知能という言葉の響きには、無条件にバラ色の未来を見てしまう人たちがいると思うが、大事なのは現在の姿の正しい認識であり、その延長線上に想定される未来だということだろう。そういう意味で本書は現実的で良心的な本だと言える。

本書を本当に理解するための最大のポイントは「50年ぶりに訪れたブレークスルーをもたらすかもしれない新技術ディープラーニングの意義をどうとらえるか」にかかっている。松尾さんはいまの人工知能を正しく理解するために、「上限値と期待値とを分けて理解してほしい」と言う。どういうことかというと、「人工知能は急速に発展するかもしれないが、そうならないかもしれない」ということだ。

急速に発展した場合には、ディープラーニング、特徴表現学習という領域が開拓されたことにより、数年から十数年のうちに、人工知能技術が世の中の多くの場所で使われ、大きな経済的インパクトをもたらすかもしれない。しかし一方で人工知能にできることは現状ではまだ限られている。基本的には、決められた処理を決められたように行うことしかできない。

つまり「いまの人工知能は、実力より期待感のほうがはるかに大きく」なっている。松尾さんの最大の狙いは「読者に冷静に現状を理解してもらった上で、人工知能の未来に賭けてほしい」というものだ。なぜなら松尾さんは「人工知能の大きな飛躍の可能性に賭けてもいいような段階にある」と確信しているからだ。

その理由が本書にはわかりやすく書かれている。果たして人工知能とは「人類にとっての希望」なのか?それとも「人類の大いなる危機」なのか?本書はその問いへの回答でもある。

要注目トピックは、「序章 広がる人工知能ー人工知能は人類を滅ぼすか」だと「自動車も変わる、ロボットも変わる」「職を失う人間」。「第1章 人工知能とは何かー専門家と世間の認識のズレ」だと「人工知能とロボットの違い」。「第2章 推論と探索の時代」だと「モンテカルロ法で評価の仕組みを変える」。「第3章 知識を入れると賢くなる」だと「専門家の代わりとなるエキスパートシステム」「知識を正しく記述するために:オントロジー研究」

「第4章 機械学習の静かな広がり」だと「学習には時間がかかるが予測は一瞬」「なぜ今まで人工知能が実現しなかったのか」。「第5章 静寂を破るディープラーニング」だと「飛躍のカギは頑健性」。「第6章 人工知能は人間を超えるか」だと「人工知能は本能を持たない」「コンピュターは創造性を持てるか」「シンギュラリティは本当に起きるか」「人工知能が人間を征服するとしたら」。「終章 変わりゆく世界」だと「近い将来なくなる職業と残る職業」「人工知能が生み出す新規事業」といったところだろうか。