本書を書いたphaさんの最大の問題意識は「この社会では、なんでこんなにみんなしんどそうなんだろうか?」というものです。タイトルにある「働きたくない」というのは、phaさんの一番根底にある最大の思想です。とにかく働きたくないという一心で、phaさんはこれまで生きてきたと言っても過言ではありません。それを単なる怠け者と批判することは簡単ですが、そんな単純な問題ではありません。

phaさんの言う「働きたくない」というのは、労働を否定しているのではなくて、仕事で成功を目指して延々と競争している人たちと自分は人種が違うのだから、無理して彼らと競争したくない。自分は競争し過ぎると、競争が好きな意識の高い人たちと比べて、圧倒的に疲れてしんどくて逆に不幸になる。だから不毛な戦いからは撤退して、自分が過剰に苦しまなくてもいいライフスタイルを選びたいということなのだと思います。

そしてphaさんはかつての自分と同じように「生きるのがつらそうな人が多いな」と思っています。 そんな人たちに「こんな生き方もあるよ。無理を続けてどんどん不幸になる人生を我慢する必要はないと思うよ」と語りかけたいのです。

「人によってつらい理由はそれぞれ違うけれど、常にみんな何かに追われているかのように余裕がなくて疲れていて、そうして疲れきった人たちの一部が、ときどき事件を起こしてしまってニュースに上がってきたりする」。

こんな社会はちょっと異常だと思います。生きていればつらいことも疲れることもあって当たり前ですが、自分の人生を損なうくらい疲れて、ついには事件にまで発展してしまったら本末転倒です。本来つらい思いをしたり疲れたりするのは、あくまで自分の幸福を追求する手段であって、自分を不幸にするためではないはず。

「これだけ文明が発達したのに、今の日本は物質的にも豊かで文化も充実していて治安もいいのに、こんなに生きるのがつらそうな人が多いのはちょっと変じゃないだろうか」とphaさんは現代日本社会に警鐘を鳴らしているのです。

本書のタイトルには「お金に縛られない」ともありますが、phaさんはお金の価値を否定していません。それどころか「困っている人の悩みのほとんどはお金で解決できる」と書いています。景気はいい方がいいに決まっているし、経済成長も全然しないよりはした方がましです。食べるものがないより、毎日おいしく食事ができる生活の方が確実に幸福なのは間違いありません。

phaさんの考える「お金に縛られない」とは、「じゃあお金の力でなんとかしましょう!という方向に行ってもあまり解決しないだろう」という考えが前提になっています。なぜならお金で解決しようとすると「だからもっと頑張ってお金を稼ぎましょう」となり、結果として頑張りすぎて逆に過労やストレスで不幸になる人たちが問題なのです。だから「景気を良くするために国民みんなで死ぬほど働きましょうみたいな社会」をphaさんは「地獄だなー」と思っています。

そして「今の日本で生きるのがつらい人が多い原因は、単純にお金がないとかいう問題より、社会を取り巻いている意識や価値観の問題が大きい」とphaさんは指摘しています。それでは「社会を取り巻いている意識や価値観」とはどのようなものでしょうか?

次のような例をphaさんは挙げています。「大学を出て新卒で正社員で就職しないと一生苦労するぞ」「ちゃんと働かないと年をとったらホームレスになるしかない」「X歳までに結婚してX歳までに子どもを作らないと負け組」「人生が苦しいのは自己責任、真面目に頑張っていればそうはならないはず」

誰もが何度も意識させられる例ではないでしょうか。これらの例を最初から否定する人は少ないはず。多くの人が最初は全部クリアしたいと願うはずですが、「実際にそれを実現できるのは全体の半数以下くらいの人だけでしかない」とphaさんは分析しています。つまり「普通とされている生き方モデルがすごく高いところに設定されている」のが現代日本社会なのです。

本当は普通じゃなくてかなり難易度が高いのに、無理やり普通だというプレッシャーが社会全体に漂っている。そこをphaさんはおかしいと思っています。むしろ新卒正社員でなくても、結婚できなくても、それだけで負け組ではなくて、ましてや自己責任でもなくて、それこそ普通なんだよと、誰かが言ってあげるげきなのです。

だから本書でphaさんは「多くの人が普通にこなせないものを普通の理想像としてしまって、その理想と現実のギャップで苦しむ人たち」に対して、「そんな現状と合っていない価値観からは逃げていいと思う。そんな価値観に従うのは自分で自分の首を絞めるだけだ」と力強く言ってくれます。

この言葉に何だか気が楽になる人は多いのではないでしょうか。「逃げる」というとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、phaさんの使う「逃げる」という意味は、自分を守るために逃げるのだというポジティブな意味の逃げるなのです。

そしてphaさんが本書で提案する生き方は「一人で孤立せずに社会や他人との繋がりを持ち続けること」と「自分が何を好きか、何をしているときに一番充実や幸せを感じられるかをちゃんと把握すること」の二つです。

生きるのが辛くて耐えられないと思っている人は、本書を読んで自分を縛っている世間の価値観を疑ってみて、もっと自分を大切にできる生き方を模索してみたらどうでしょう。エスカレーターとは別の階段や、競争から下りる場所があることに気付きましょう。いつのまにか生きることが楽になり、人生を楽しめるようになるのではないでしょうか。