本書「鈴木さんにも分かるネットの未来」とは川上さんらしい脱力した不思議なタイトルですが、一体何を目的に書かれた本なのでしょうか。本書はジブリの機関誌「熱風」の連載をまとめた本です。「週刊文春(2015年7月2日号)」に川上さんが連載している「ジブリ見習い日記」で本書について言及されているので、その一部を引用させて頂きながら、川上さんが本書を書いた意図に迫りたいと思います。

川上さんの著作といえば4月に「コンテンツの秘密」が発売され話題作となっていますが、川上さんによると「コンテンツの秘密」と本書だけが「ぼくが自分で文章を書いた本」だそうです。つまり川上さんが最近考えてきたことの集大成が、「コンテンツの秘密」と本書になるのでしょう。それだけの自負と自信が伺えます。

そもそもなぜ連載を始めたかというと「インターネットによって世の中がどう変わるか、本当にちゃんと説明した本はない」と川上さんは考えたからです。しかしもう20年以上、インターネットが世界をどう変えるかという本は、それこそ数え切れないほど出版されています。

それにも関わらず「本当にちゃんと説明した本はない」というのはどういう意味でしょうか。川上さんの言う「ちゃんとした説明」とは何なのか。その回答が本書です。川上さん曰く「これはいままでだれも書いていないような中身です。たぶんIT業界のひともうすうす気づいていながら、はっきりとは口にしなかったこと」だそうです。IT業界のひとたちは、うすうす気づいていたのに、なぜはっきりとは口に出来なかったのでしょうか。

川上さんが本書で書きたかった最大のテーマは「国家とインターネットの戦い」です。 ネットが世界を網羅すると国家がなくなると語る人は多い。堀江貴文さんの田原総一郎さんとの共著のタイトルもずばり「もう国家はいらない」でした。川上さんも「実感のわかない夢みたいな話」と認識しつつ、「それはきっと本当の話なのです」と国家がなくなると真剣に予想しているようです。

ただし川上さんがここで立ち止まり考えたのは「本当に国家がなくなるとしたら、国家はだまってその運命を受け入れるはずがない」ということでした。ここがおそらく本書の肝となる部分、これまで本当にちゃんとした説明がなかった問題ではないでしょうか。

国家がだまって自らの消滅を受け入れないならば、当然戦争になります。そして国家とインターネットの戦争がはじまります。その戦争がどういう戦争になるのかをシミュレーションしたのが本書だとも言えるでしょう。それこそが「鈴木さんにも分かるネットの未来」予想図なのです。



鈴木さんにも分かるネットの未来 (岩波新書)
川上 量生
岩波書店
2015-06-20