ラストワルツ
村上 龍
ベストセラーズ
2015-04-21


「ラストワルツ」は村上龍「すべての男は消耗品である」シリーズの最新エッセイ集である。本の中には現在の村上龍の写真が5枚挿入されている。仕事場でMacBookに向かって原稿を書いている写真が3枚、椅子に座ってカメラを凝視している写真が1枚、ホテルの窓際でズボンのポケットに手を入れて佇んでいる写真が1枚だ。

63歳になった村上龍は、表情も体型も驚くほど若々しい。そして確実に威厳が増している。超一流の仕事を続けてきたという誇りのようなものが、カメラを見つめる強い眼光に宿っている。

若々しく見える最大の要因は豊かな毛髪と目だ。収録されているエッセイには「わたしはなぜ髪が多いのか」というタイトルのエッセイがあるし、「俺の目を誤魔化すことはできないぞ」という小説家としての厳しく鋭い目はデビュー当時から変わっていない。

「ラストワルツ」というタイトルだが、本シリーズのタイトルとしてはシンプルだ。これまでは例えば「逃げる中高年、欲望のない若者たち」「櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている」「賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ」など、メッセージ性の強いタイトルが多かった。

実は本書には当初「意味のない停滞」というタイトルを付けるはずだった。それを「ラストワルツ」に変えたのは、「意味のない停滞、というタイトルの本を買いたいという人は少ないだろうと思った」からだが、「ラストワルツ」というタイトルには甘美なイメージが込められている訳ではなく、「ラストワルツのほうが、当然のことながら、ニヒリスティックだ」とあとがきに書いてある。

しかし本書からは村上龍の老いてなお衰えない強大なエネルギーが伝わってくる。それは肉体的にも精神的にも老化は進んでいないという意味ではない。本書の中でも村上龍本人は自身の老いに対する自覚について繰り返し言及している。衰えていないエネルギーというのは、小説を書くエネルギーということだ。

老いたからこそ、小説を書くこと以外に無駄なエネルギーを使うのは控えて、なるべく小説の執筆に持てるエネルギーを集中して発揮しようとしている。そのような覚悟が本書を貫いている。

村上龍は幼稚園のころから、「お前はサラリーマンにはなれないし、ならないほうがいい」と両親や親類や教師から言われ続けた。中学生の頃は医者を目指した。「もっとも身近な非サラリーマンは開業医で、しかも裕福そうだった」からだ。

しかし高校2年の時に全共闘に代表される反体制運動とヒッピー文化に影響され、まったく勉強しなくなり、成績が急速に悪化してしまったので、医学部進学も不可能になった。上京して美術大学に潜り込んだが画家になる夢もすぐに潰えた。そしてとことん追い詰められた村上龍は小説を書き始めた。

作家としてデビューしてから37年が経った村上龍は、これまでにないくらい小説を書くことに情熱を燃やしている。エッセイの中で村上龍は「小説というのは言いたいことを言う表現ではなく、本質的な疑問を提出する表現だ」と書いている。村上龍が内に秘めている「本質的な疑問」は尽きることなく、一層強く湧き出ているようだ。

新しい小説の資料として「いかに戦争が起こるか」というような本を、村上龍は集中して読んでいるそうだ。「いかに戦争が起こるか」というテーマは、まさしく現在多くの人たちが「本質的な疑問」と感じている問題ではないだろうか。相変わらず村上龍の天才的な嗅覚は健在だ。

資料として読んでいる本の中では、バーバラ・タックマンという女性が書いた「八月の砲声」が素晴らしかったと絶賛している。しかし「それではどこが面白かったのかというと、これは準備中の小説のネタを明かすことになるので、ごめんなさい、書けません」ということなので非常に残念だが、早くも新作が楽しみになってきた。


ラストワルツ
村上 龍
ベストセラーズ
2015-04-21