心の折れたエンジェル
大槻 ケンヂ
ぴあ
2011-03-17


忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー The FILM #1~入門編~ [DVD]
忌野清志郎
ユニバーサルミュージック
2015-08-05



大槻ケンヂ(オーケン)のエッセイ集「心の折れたエンジェル」に「たった一度の忌野清志郎さんとの会話」というエッセイが収録されている。オーケンのエッセイと言えば、さくさく読めて、くすくす笑えるのほほんエッセイが多いのだが、このエッセイは極めて真面目なエッセイである。これは「ロックとは何か」を真剣に自問自答したエッセイなのだ。

オーケンが忌野清志郎さんと同じステージに立ったのは、たったの一回だけだった。時は90年代の前半、ボ・ガンボスとRCサクセションと筋肉少女帯という「ニューオーリンズに空気の読めないヘビメタバンドが一つまぎれ込んだかのイベント」があった。当然ながら筋肉少女帯は「つめかけたオーディエンスにドン引かれた」のだった。しかしこの時のオーケンは、清志郎さんと直接会話を交わすことはなかった。

オーケンが清志郎さんとたった一度だけ会話を交わしたのは、清志郎さんのデビュー何十周年かを記念して制作された堤幸彦監督のドラマの撮影現場だった。清志郎さんが小料理屋へ飲みに来たという設定で、「板さん役がジョニー大倉さん、ママがYOUさん、客Aが大槻ケンヂ」という何とも味わい深いキャスティングであった。

事件は撮影に入る直前に起きた。ジョニー大倉さんが突然「ちょっと待って。この台本にある『わけありの板前』の『わけあり』っていうのはどういう意味かな?」と質問したのだ。スタッフや他の出演者たちは「いやあの、これコントっすからジョニーさん」と内心思っていたものの、口に出して言えるものはいなかった。

関係者は全員「ドラマというよりシチュエーション・コントに近い軽いノリ」だったのだが、ジョニーさんは真面目にドラマの板さん役を演じようとしていたのだ。堤監督は「そんな・・・」という表情を隠しきれないまま、しどろもどろで説明しようとした。

この緊迫した場面でオーケンがどうしたかというと、「見て見ぬふりでうつむいていた」だけだった。小心者なのである。その時、オーケンに大事件が起きた。清志郎さんがヒジでオーケンの脇腹をチョンチョンとつっついたのだ。突然のことに驚き舞い上がったオーケンに清志郎さんはこう言った。

「あのさ」
「は、はい!?」
「ジョニー大倉ってコワそうだねぇ」
「え?は?あ・・・そ、そうっスね」

以上がオーケンが「生涯最初で最後となったキング・オブ・ロックとの会話の全貌」なのであった。せっかくのキング・オブ・ロックとの会話がたったのこれだけ、しかも全く何の意味もない、ロックとは無関係の会話であった。要するに「ジョニー大倉ってコワそうね」「そうっすね」というだけの、もはや会話とさえ呼べないようなやり取りだった。

ここで時代はオーケンが高一の頃、82年に遡る。オーケンは同級生と品川プリンスホテルのイベントに出場する清志郎さんのバンドを観に行った。生の清志郎さんは「神々しいまでの迫力に輝き、とても同じ人間とは思えなかった」のだった。

ところがオーケンはイベントの途中で会場から出てしまった。オーケンは清志郎さんがコワくなったのだ。平凡で地味な高校生にとって清志郎さんのパフォーマンスは「あまりにも圧倒的」であり、オーケンには強烈すぎる刺激だったのだ。「俺らごときがこんなとこいちゃいけないんじゃないか?」とビビりまくったのだ。

オーケンは今ではこう思っている。ようやく辿り着いたロックの定義である。

「あのコワさこそがつまりロックだったんだな」



心の折れたエンジェル
大槻 ケンヂ
ぴあ
2011-03-17

 

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