本書の主題は「ポスト資本主義」(拡大・成長から定常への移行)であり、広井さんは「ポスト資本主義/ポスト成長」という時代状況に適応した「科学や知、価値原理」を、専攻である科学哲学/公共政策(に加えSF映画マニア)の知見を存分に活用しながら探求しています。広井さんの一貫した思想は「経済社会のありようと、科学の展望とはパラレルな関係にある」というものです。

非常に大きな難易度の高いテーマにも関わらず、学術的な高い水準は維持しつつ、誰にでもスラスラと読ませてしまう広井さんの手腕はお見事。理路整然とした論旨の展開と、多くの論文のピンポイントの鮮やかな整理と、簡潔で軽やかな文章のおかげでしょう。

第1部では「資本主義の現在までの歩みとその臨界点」を確認し、そこでの「矛盾を克服していくような社会構想の入口に立つ」とともに、そうした構想が、「科学や情報、生命等についての原理的な考察を不可避なものとして要請すること」を主に議論しています。

そして第2部ではその内容を「資本主義/ポスト資本主義の行方を展望する」にあたって、その「根底に位置すると思われる科学のあり方」に焦点をあて、そこでの「自然観、生命観、あるいは価値原理」について考察します。

最後に第3部では第1部の議論と第2部の考察を踏まえ、これから実現していくべき新たな社会構想につついて考えます。それが緑の福祉国家/持続可能な福祉社会です。

その社会は、「過剰の抑制」と「再分配の強化・再編」を柱とし、資本主義的な理念を存続するために、社会主義的な対応が必要になるという、パラドキシカルな構造でもあります。

それは資本主義(の抑制)から市場経済あるいは個人の自由を守ると言い換えることが出来ます。加えて、社会の構想においてきわめて本質的な意味を持つテーマが、「コミュティ」と「ローカル」という二つの視点です。

それは「物資の消費→エネルギーの消費→情報の消費→時間の消費」という経済構造および科学の基本コンセプトの進化と対応します。そして本書は以上の社会構想が単なる理想論、抽象的な理念にはとどまらないことを示します。

しかし広井さんは決して楽観的なわけではなく、それは困難なプロセスであり、21世紀は「拡大・成長」を志向するベクトルと定常化を志向するベクトルとの対立の時代になるだろうと本書を結んでいます。