さらば、資本主義 (新潮新書)
佐伯 啓思
新潮社
2015-10-16


本書「さらば、資本主義」における著者・佐伯啓思さんの問題提起は次のようなものです。

「最大の問題は戦後日本の主たる関心が、もっぱら経済成長と物質的な豊かさにしか向けられていなかったこと」「今の日本は経済成長を第一義の価値にする時代ではない」「では何をわれわれは、次の国家的な目標にするのか」

これだけなら巷に溢れている「資本主義の終わり本」と変わりがないようです。それでは本書が持つオリジナルな意味とは何か?あえて佐伯さんが本書を書いた意図は何なのか?

タイトル「さらば、資本主義」の由来は「資本を金融市場にバラまいて成長をめざすという資本主義はもう限界」ということです。

それではポスト資本主義をどう考えるか?佐伯さんは「簡単に答えは出ない」とし、「この問題はわれわれ一人ひとりが自分が考えるほかない」と言います。つまり本書は読者がポスト資本主義を自分で考えるための材料を提供するものであり、脱資本主義の旅に出るための一冊のガイドブックなのです。

第1章「今こそ、脱原発の意味を問う」において、佐伯さんは「脱原発」こそが「脱成長」を象徴するキーワードになると考えています。

すなわち「脱原発が意味するものは、いわば脱成長であり、科学と技術の革新によって、富を生み出し無限に成長するという近代社会の価値を根底から見直す」ということです。そしてそこでは犠牲が必要になる。それは「経済のレベルを落とし、生活・消費のレベルを落とす」という犠牲です。

しかし一体どれだけの人が生活のレベルを落とすという犠牲を払えるでしょうか。そもそも今は生活のレベルを落とすどころか、将来が不安で消費を控えたり、欲しい商品がたくさんあっても収入が少なくて買えない人たちが増えているのです。この現実をどう考えるのか?

この書物の結論であり、その主張のエッセンスが詰まっている最終章をざっとみてみましょう。

「資本主義の終焉にもかかわらず、われわれがいつまでも拡張願望や自由への欲求にとらわれている限り、フラストレーションや苛立ちから抜け出ることはできない」と現状を分析する佐伯さんは問題解決の方向として「拡張願望や自由への欲求という近代を突き動かしてきた価値観を見直すしかない」という方向を示唆します。

わかりやすい言葉で言い換えるなら、「やればできる」「なせばなる」「がんばれば報われる」という言葉から「やってもできないことはある」「がんばっても報われないときもある」への移行です。

しかし個人的には従来の資本主義の価値観はかなり強固であり、未だ世界を圧倒的に支配しているように見えます。簡単に変わるようには思えません。脱成長を唱える人は増えていくでしょうが、それが現実に対して影響力を持つのはかなり先ではないでしょうか。

資本主義の成長神話に限界が来ていても、マイナーチェンジを繰り返し、騙し騙し多くの人たちはダラダラと資本主義にしがみつく。結果として成長して豊かになるはずが、貧困層に転落する人たちが増える。このシナリオは悪夢ですが、最も現実的なシナリオなのかもしれません。


さらば、資本主義 (新潮新書)
佐伯 啓思
新潮社
2015-10-16